たからもの
1
小さい頃、わかなちゃんという子が家に遊びに来た。
わかなちゃんは弟の友だちの姉で、その日が初対面だった。わたしたちはすぐ友だちになって、つい先日こしらえてもらったばかりのわたしの部屋で遊ぶことになった。
今でも覚えている。わたしには、とても大切にしている宝物があった。
白とも透明ともつかないような色のビーズとピンクのストーンを組み合わせてできた、小さなブレスレット。あまりに綺麗なので、わたしはそれを身につけずにいつも宝物入れにしまっていた。
だがその日その綺麗なビーズは、部屋の床いっぱいに散らばることになった。経緯は思い出せないのだが、わかなちゃんはそのブレスレットを壊してしまったのだ。
いろんな思いが、ぐるぐると幼いわたしの頭を駆け巡った。
謝りもせず平然としているわかなちゃんに対して怒りをぶつけるべきなのか、階下の母を呼んでくるべきなのか、それとも。
わたしは、何も言えなかった。何もできなかった。
わたしにとってどれだけそのブレスレットが大切だったか考えながら、ただ床に落ちたビーズを拾った。わかなちゃんも、それを手伝ってくれた。
大きくなったわたしは、床を見つめた。あのときのわたし、何も言えなかったわたしは、少しも変わらないままビーズを拾いつづけている。
2
小学生の頃から暮らしていた街を歩いた。
思い出が甘酸っぱかった試しがないのは、わたしだけだろうか。
思い出すのは苦い記憶、世間知らずで空気の読めない自分の言動ばかりだ。
ちゃんと現在の自分を大切にできるという意味では、悪いことばかりでもないのだろうか。