雑煮
すっかり夜。
会社を出てマスクをずらし外の空気を吸ったら、私の中にねむる何らかの思い出が手足を少しばたつかせ、そうしてすぐ静かになった。
朝から調子がわるい。
喉が痛痒いし、身体は汚水をよく吸った雑巾のごとく重い。
生来身体が頑丈なので、風邪ないし体調不良の気配を察知すると途端に気持ちが弱り腐ってしまう。
身体の強さと心の強さは、連動しているようで全然していない。
そんな風にかなり憂鬱な気持ちだったけど、春の夜が醸す空気は憂鬱よりいくらか上手だった。
はるか昔、たぶん名札のついたスモックを着ていたくらいの時期の実態なき思い出が、ふわりと立ち昇ってはすぐに消え。
立派な大人に向かう私はそんなことにたじろがず、熱があるのかな、とか、明日の打ち合わせは欠席できないな、とか。
そんなことを処理し続けるほかない。無為に。
夜ごはん。
体調が悪いとか宣っている人間の夕食ではないな……
久々にCoCo壱に行って、セットサラダまで食べたらお腹がはち切れそうになった。
幸いまだ歳をとることに無自覚でいられるけど、食べたいものは食べられるうちに余すところなく食べたい、という思いがある。
よく食べてよく眠る健康な私は、それでも何かが欠けているから、部屋の隅でじっとしている。
体温計で熱を測ったけど、ごくごくいつも通りだった。