灰白色
まるで鉛筆で描いたみたいな顔の女だ、と思う。
なにしろ眉毛から目、鼻、唇に至るまでパーツの全てが薄く、ぼんやりとした印象なのだ。
冬の昼、色のない公園を彩るのは曖昧な潮の香りのみ。ただ歩いているだけで、手に持った缶コーヒーはすぐにぬるくなってしまう。
突然強すぎる風が吹いて、彼女のスカートが大きくはためいた。そんな小さなことでこの世の終わりのように恥じ入ってしまう彼女は、もちろん足の上をひっそり通過した僕の目線を見逃さない。火がついたようにまくし立てる。
「違うんです。あの、このあざは、違うの、わたし、あの、すごいなんていうか、あの、そそっかしいじゃないですか。だから、知らない間に手とか足とかいろんなとこぶつけて、よく、あざになってるんです。だからあの、誰かが、とかじゃないんです」
彼女の話し方はいつも不規則で、まるで小さなしゃっくりを繰り返しているみたいだ。
あざができる理由なんて、どうでもいい。彼女のことなら知っている。付き合っている男の借金を肩代わりさせられて貯金を使い果たしたことも、もう借金する当てがないということも、先日とうとう風俗で働き始めたことも。
僕が黙ったままなので、彼女はおびえた表情を崩せない。この世の全てを恐れているようにも見えるが、全てを諦めて運命に身を任せているようにも見えるのはなぜだろう。
きっと彼女は誰に何をされても、たとえ殺されたとしても、相手の全てを自分の罰として受け入れようとするんだろう。
無性に腹立たしくなってきて、僕は冷たい缶コーヒーを手にしたまま乱暴に彼女を抱き締めた。彼女はこわばった顔をしたままで、それからはもう何も言わなかった。