遊戯
指先までぴしりと整った二本の手がくるくると回り、うねり、握り込まれた包丁は生きているかのように踊る。彼はつまりそういう類の曲芸師で、そうであるなら普通は飾りのついた大ぶりなナイフを使うところ、どこにでもある簡素な包丁を使って見事な技を見せつけているのだった。趣味が良いのか悪いのか少し考えて、最終的には、やっぱりコイツ変なやつやわ、と思った。
包丁じゃなくて他のものも扱えるか、そう聞いたら、彼は無言で懐からハサミを取り出した。こちらは凝った細工が施され、ぴかぴかの金色をしている。統一しろや、今度はそう思う。
彼は左手にハサミを持ち、大きく開いて包丁を握り込んだままの右手首に向けた。そのまま、人差し指と親指をきゅっと握り込む。
すぱっ。
彼のからだを真っ二つに切ったらどうなるんだろう。かつて暇で暇で仕方ない日曜日の朝方、毛布に包まってそんなことを考えた、かもしれない。
実際のところ、彼の手首から血は流れなかった。断面は奇妙なチャコールグレー色で、少しでこぼこしている。
じろじろと手元を見ていたら、チャコールグレーを突き破るようにして、白く細い指が生えてきた。……は?
「ね、びっくりした? さすがの君でも」
返事なんてしてやらなかった。やっぱり変なやつ、いや、つまんないやつ。