ナチュラルとは
1
よく歩く通りに、年中貝がらでできた風鈴を提げている家がある。
そういえばあの風鈴の音を聞いたのは、風が強い夏の日一度きりだった。
音色にいたく感動したはずなのに、もうどんな音だったか思い出せない。
しゃりしゃり、しゃらしゃら、どっちだったかな。
2
ひとりになると、人はこんなにも息を吐くことができるのか、と驚く。
仕事をしていると、吸って吸って吸って、吸えなくなったらため息をついて、その繰り返しだ。
ほどほどに吸い込んだら、風船になって飛んでいきたい。そして気が向いたら息を吐いて、また地上に戻ってきたい。
3
日はずっと前に沈んだはずなのに、見上げた空はほんのりオレンジ色だった。
どうやらわたしの見ていた方角には、東京タワーがあったらしい。
人工的な夕焼けにも感動してしまったことがちょっと悲しく、くやしい。