暮らす豆

ゆるい日記など

いふ の話

 

暗い帰り道、肩をすぼめて歩いていたら、急に雷の音が聞こえた。

聞こえた次の瞬間には、それが雷の音でないと分かっていた。そして、寒い夜に雷の音なんて聞いたらきっと“畏怖”してしまうだろう、そんな風に思った。

畏怖という言葉は普段なかなか使わない。日常で使うシーンなんて訪れることがない。でも、きっと冷たい空気の中を雷鳴が駆け抜ける瞬間に居合わせたとき、頭の中で弾けるのは“畏怖”なんだ。何だか知らないが、確信めいたものがあった。

角を曲がったら、道路工事のトラックが止まっていた。ああ、この音か。そのとき畏怖の予感は、パチンと音を立ててきれいさっぱり消え去った。

 


冬に雷の音を聞いたことはない。学がないから理由はあまり分からないが、簡単に調べたところ日本の太平洋側で育った人間としてそれはごく一般的なことらしい。

いつか冷たい空気を真っ二つに割る稲妻を目撃したい、そしてその音を聞けたらな。私の妄想の中で、それは一発で両の鼓膜を破るほどに大きく、激しい。