暮らす豆

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まっすぐな目

『汚れ続けることでしか満たされないのを笑わないでね』

-the cabs「わたしたちの失敗」

 


やたらに共感を煽ってファンを効率よく獲得しようとする音楽が好きではない。なぜなら音楽を手段として使っているように感じられてしまうから。

音楽の主役はあくまでメロディーでありハーモニーでありリズムであり、歌詞はそれらを十分堪能したあとで入ってくるもの。よって難解か、あるいはほとんど意味がないものがよい。

そう思っている私の心にも、ごくまれにもの凄い歌詞が突き刺さってしまうことがある。冒頭に挙げた「わたしたちの失敗」のワンフレーズが、それに当たる。

 


「それ分かる〜」と安易に言うことは絶対にできないし、したくもない。だけどこのメンタリティにごく近しい何かを私も持っていて、だからこそこの言葉は私の胸の奥、潜んでいる何かと強く共鳴する気がする。

 


脳裏に浮かぶのは、顔を手で覆った女性の姿。ただしその人は指の隙間から、汚れ続ける自分自身をしっかりと見つめ続けている。冒頭の言葉は誰か他の人に宛てられたメッセージに聞こえるが、実は他でもない彼女自身に宛てたものなのではないだろうか。

 


本当は誰かに全てを委ね赦されたいが、賢い彼女はその願いが叶わないことを知っている。だからせめて自分くらいは己にまつわる全ての出来事を真摯に見届けてやろうと決意し、そして、ますます傷ついてゆく。

 


この曲の後半には「浴室に鍵をかけて もう何も失わないように」というフレーズも出てくる。こちらも私は好きだ。傷つくことを恐れて安全な場所にこもっていては、傷の原因が自身のまっすぐすぎる目にある可能性に気づけない。ひとりでいる限り自分の傷を受け止め治療してくれる人には絶対に出会うことができないので、いつまでも満たされることがない。

生きているだけでいつのまにか頑丈な鎖に絡めとられて身動きが取れなくなっていくような苦しさ。その苦しさはとても切実で、安易に共感したくないと思いつつ、初めてこの曲を聴いた時からずっと胸に響き続けている。