濁り
地下鉄の発車を知らせる音が、単なる警笛からやたらと明るい音楽に変わってしまった。
つまりこれからは幸せな時でも、薄暗い気持ちの時でも、明るいメロディと共に地下鉄に乗らなければならないということだ。
みんなが俯きがちに椅子に座っている中ハイテンションなメロディが響く様子はなんだか虚しくて、心の奥底に鳥肌が立ってしまう。
ドアが閉まる。窓から迫りくる轟音が、他のすべての音をかき消す。
そう知っているから、そっと顔を横に向けてつぶやいた。
わたし、あなたに会いにきたの。
思っていたよりも大きな声が出てしまい、焦って向き直ったが、前に座るおじいさんは眠そうな様子でときどき船を漕いでいる。
ああ。よかった、とまたつぶやく。わたしと彼のことは、誰にも話せない秘密なのだ。