レモン色
1
ある人へ、手紙を書こうと決めた。
誰かに向けて手紙を書くことは、わたしにとって最も尊い行為のひとつだ。
思えば今までの人生、忘れてしまいたいくらい恥ずかしい手紙ばかり書いてきた。
でも、今度の手紙は、後から読み返しても納得がいくよう書きたいのだ。それより何より、思いが伝わるように書きたい。
だってあの人に手紙を書こうと決意したその瞬間、鳥のさえずる声が、どこからかただよう甘酸っぱいにおいが、わたしを取り巻くすべてが、心の中に流れ込んできたじゃないか。
この気持ちを、余すことなく伝えたい。全身全霊をかけて書き、願わくば丁寧に読んでもらいたい。出会えたことの幸せさを、どうか本人に伝えたい。
2
優しさにもいろいろ種類がある。
「何でもしてあげる」優しさは、あまり好きではない。そこには「してあげる」側の優越が必ず存在する。
わたしは何もしない優しさが好きだ。実際に混乱の渦中にいる人に対してできることは、意外と少ない。何かしてあげられるんじゃないかと驕るよりも、事が落ち着いた後で労いの言葉をかける方が親切ではないだろうか。冷たいと言われても、わたしはその考えを捨てきれない。